東京高等裁判所 昭和27年(う)4228号 判決
〔抄 録〕
第二点(累犯加重に関する法令適用の誤)について。
原判決が、被告人は昭和二十七年四月三日神奈川簡易裁判所において窃盗罪により懲役十月に処せられその受刑を終つたものであるとの累犯加重の前提となるべき事実を認定し、証拠として前科調書を、法令の適用として、刑法第五十六条、第五十七条を掲げ、累犯加重をした刑期範囲内で、刑を量定処断したものと認められることは所論のとおりである。
よつて案ずるに、記録に編綴されている法務府矯正保護局作成の指紋回答書及び被告人の副検事世羅三郎に対する昭和二十七年十月六日附供述調書の記載を総合すれば、被告人は原判決摘示のように昭和二十七年四月三日神奈川簡易裁判所において窃盗未遂罪によつて懲役十月に処せられた事実は明らかであるが、本件犯行当時たる昭和二十七年十月四日当時右刑の執行を受け終つていたものと認めることは到底できないのである。即ち、被告人は、右刑につき十五日の未決通算を受け昭和二十七年四月十八日から、その執行を受けはじめ、刑期の満了日は、昭和二十八年二月二日と予定せられていたものであつて、昭和二十七年八月八日横浜刑務所を出所したけれども、右は仮出獄によるものであり、昭和二十七年政令第百十八号減刑令による減刑によつて、刑期の四分の一を短縮され、計算上満期は同年十一月十七日と考えられるにしても、本件犯行当時は仮出獄中であつたものと認めなければならず、仮出獄中は未だ執行を終り又は執行の免除ありたる場合に該当せず、仮出獄中に行われた犯罪に対しては、累犯加重規定を適用すべきものでないからである。
従つて、原判決には、累犯加重を為すべき場合でないのに、本件犯行当時、被告人が右刑の執行を受け終つたものと誤認し、この誤認にもとずいて、適用すべからざる刑法第五十六条第五十七条の累犯加重規定を適用した法令適用の誤があるのである。そして、累犯加重が為される場合においては、所定の懲役刑の長期の二倍以下の刑期範囲内において量刑処断されることとなるのであるから、累犯加重規定の適用がない場合に比し、被告人に対し、量刑上不利益であることは明らかであり、累犯加重に関する法令適用の誤は、通常刑の量定即ち処断刑(従つて判決主文)に影響を及ぼすことが明らかであるというべきである。尤も例外的な場合に、累犯加重規定の適用を為すべからざるときにこれを適用し、或はその反対にその適用をすべきであるのにこれを適用しなかつた誤があつても、その誤が刑の量定従つて処断刑の変更を来さない場合もあり得べく(適用すべからざる累犯加重規定を適用し或は適用すべき右規定を遺脱したけれども、事案の性質上、刑をそれ以上重くし又は軽くすることができないものと認められる場合)、かかる場合は明らかに判決に影響を及ぼす場合に該当しないものというべきである。
これを本件についてみるに、被告人の本件行為は、唯一回の窃盗行為であつて、被害品も左程多いとは認められず、犯行後間もなく発見逮捕されて、被害品は被害者に還付され、又被告人の家庭の事情、本件犯行の動機にも多少同情すべきものがあり、後記第三点において説明するように、本件事案については、被告人が昭和八年以来多数回に亘り、窃盗、詐欺、恐喝、強盗未遂、賭博等の犯罪によつて処断された事実及び前記説明のように仮出獄中の犯罪である事実を参酌しても、懲役一年をもつて量刑処断するのを相当と認められるので、判決に影響を及ぼすことが明らかな場合に該当するものというべきである。従つて論旨は理由がある。